尚士会稽古日誌 ちょっと一服 「研ぎについて」


稽古の合間の談話の中にも大変役に立つ話があります。今回はそんなお話を紹介したいと思います。それでは先生お願いします。


稽古の合間の談話も大事な稽古です。弟子達に行った研ぎについての説明を紹介します(熊師範談)


古代より研ぎは大きく分けて武家研ぎ・商人研ぎにわけることができます。


商人研ぎ:要するに観賞用の化粧研ぎのことです。我われのように抜刀を行っているとヒケ傷などですぐに波紋は消えてしまうので、抜刀用の刀にはもったいない研ぎです。型などで使用するのであれば問題ありません。


武家研ぎ:斬るための研ぎです。寝刃(ねたば)合わせのことです。斬るための刃を刀につけるのです。私の場合自分で研いでいます。研ぎ師のような化粧研ぎはできませんが、斬る為の刃は研ぎ師に「自分でつけてください」と言われるほどです。なかなか私の要望を満たす研ぎができてこないため、研究の末自分でつけた刃が一番切れ味が良いようです。刀とは道具です。自分で造り自分で手入れする。これが理想と考えます。


寝刃合わせは弟子達にもやらせていますが、なかなかできないようです。かえって斬れなくしてしまい私が研ぐはめに・・・。でもやらないと覚えないので仕方がないことです。


武家研ぎの話に戻ります。昔の武士は、刃の手入れなどは自分で行っていたのです。戦場に於いては斬りあいをすれば刃はぼろぼろになってしまいます。合戦の合間に刃こぼれを直すわけですが、砥石がなければ河原の石なども使ったようです。他に竹・皮・甲冑なども間に合わせとして使ったようです。また、血のり落しは、塩水、灰汁、なければ自分の唾でのりを落とします。血が固まってしまうと斬れません。ですから武家屋敷には、砥石が置いてあり斬り合う前は、自分で研いだり、寝刃合わせをしたりしていたようです。


ただし、実際の寝刃合わせにはいろいろな調整が必要です。人間の体には個人個人癖があります。斬った時の手癖があります。刀のどちら側に多くヒケ傷がつくかで、刃の起こし方が変わります。要は、ヒケ傷の多い方が抵抗が大きいわけですから、そこを調整することにより切れ味が増すわけです。


寝刃合わせは単に丸くなった刃をおこすだけではありません。なかなか難しい部分ですがだいじなところであり、道具の手入れ一つとってもまだ研究が必要であり、一生精進なのです。